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A-TOM ART AWARD 2025 受賞者展・授賞式開催
当社は、若手アーティストの育成を図るとともに、文化を通じた都市・地域活性を目指し、芸術を学ぶ全国の学生から作品を募集する「A-TOM ART AWARD」を2017年より開催しております。本年も多数の応募の中から、書類選考、プレゼンテーションによる最終審査会を経て4名の受賞者が決定いたしました。11/7(金)~11/22(土) の期間、コートヤードHIROOにて受賞展を開催いたしました。
2026年には受賞者4名と共にアートプログラムを実施いたします。彼らのこれからも活動・活躍にご注目ください。





A-TOM ART AWARD 2025 EXHIBITION
Profile & Statement

姥凪沙
1999年生まれ
東京藝術大学美術研究科先端芸術表現専攻 修士課程在籍
先天性のてんかん持ち・右半身マヒにより、一見すると身体障害者と気付かれないが健常者でもない。 右の手・足・耳が不自由な身体障害者。私の身体は、身体障害者・性・家族または愛について記憶しているメディアのひとつと考えて表現活動を行っている。身体を忘れないためにはなにができるか?身体表現を中心に映像表現や空間表現、写真表現などから作品制作を行う。
https://www.instagram.com/babananana910/
Take Your Time
2024 / ミクストメディア、パフォーマンス
写真は会場の窓から見ると外にある。成長過程で左右非対称に歪んだ自身の背骨のコンプレックスと水着の日焼け跡の背中姿が写る。私は身体にあるどうしようもなさから逃げず、曝け出すと決めた。
映像は口文字、手話、点字を含めた様々な字幕と泳ぐ映像。水中で息を吐く間だけ作者のメモの言葉と身体障害者3 人が話す私生活についてのインタビューの声が聞こえる。普段、聴き逃してきた声から想像してみてほしい。服薬中のてんかんの薬の殻を毎日保存瓶に満たす行為は、自分の生きた日数分が視覚化され、安心する。
あなたがどんな身体か?自分の身体を忘れないでほしい。私の身体は健常者に同化し目指そうと疲れてしまう。障害のある旧友に聞き取り調査をはじめた私は身障者の友達の声を頼りに、自分の身体を取り戻す。私が自分の身体を取り戻せたとき、湧き出た感情は怒りだった。私が日々、噛み殺してきたため息は水中で息継ぎをするために吐く。物語の障害者が成功して終わることは、経験が身体に馴染む瞬間の話。だが多くの障害者の毎日は、挫折や諦め、妥協の途中を生きている。乗り越えなくても、支え助けられ、諦め、休んでもいい。私は物語るのではなく、身体を語
りたい。生きることに許可はいらないはずだから、周りの流れに身を委ね溺れないように、進むフォームは自分が決める。
インストーラー / 神作真由、前川加奈、水澤汐音
メンター / 笠原梨花子、百崎楓丘

辻 純
2001年神奈川県生まれ
東京藝術大学グローバルアートプラクティス修士課程在籍
日本画を学んだ経験から希少な鉱物資源を絵具として用いることに疑問を抱き、より持続可能な表現を模索する中で、身近な雑草や外来植物から顔料を作り作品に活用する独自の制作「草木画」を展開。自然と人との共生や土地の歴史を踏まえ、外来植物と日本人の関わりを美術家の視点から捉え直すプロジェクトを進めている。絵画にとどまらず、不要になった新聞紙を再利用した立体作品や、草木染めを施した廃材による額縁制作なども行い、環境に配慮した表現の可能性を探求している。近年の展示に「多摩美術大学卒業制作優秀作品展」(2025、多摩美術大学アートテークギャラリー)、「辻純 個展」(2023・2024、新百合21ホールギャラリー)などがある。
https://www.instagram.com/100tsujijun/
裏山
2025 / パネルに画用紙、柘榴、蜜柑の皮、ヤマモモ、コブシ、梅、どんぐり、胡粉
この作品はかつて通った校舎裏の雑木林を描いたものです。私にとってそこはインスピレーションの源であり、独りで考え事に没頭できる貴重な場所で、学部の4 年間に何度もその雑木林を歩きながら、作品の構想を練ったり、画材になる植物の収集をしました。制作中は、大学が置かれる多摩丘陵の急速な土地開発の波がこの裏山まで到達するいつかの日を思いながら、目の前に揺れる木の葉一枚まで描き残すつもりで取り組んでいました。
昨今では人の手の入っていない自然は醜く、災害の危険があるとして即座に整備がなされます。しかし私はこの作品を通して、あるがままの森の美しさと力強さを見る人に伝え、人間は自然と共に生きていることを想起して欲しいと考えています。


鈴木一生
2004年富山県生まれ
武蔵野美術大学造形学部油絵学科油絵専攻在籍
「私たちはどこから来て、どこへ向かうのか」をテーマに掲げ、民俗学的視点での土地や風土のリサーチをもとにした表現活動を行う。受け継がれ、今も変化し続ける民俗文化に対して、どのように関わることができるのか、捉えることができるのかを探っている。それは、現代における民俗のありようを見つめ直し、私たちの在り方を問う行為でもある。
https://www.instagram.com/issei_suzuki_/
道具と使い方2025
ミクストメディア
人は古くから、道具を通して自然と関わってきた。
本作は、そうした「使うこと」の原点に立ち返り、ものが道具になる瞬間を探る試みである。現代の素材を組み合わせ、ブリコラージュ的に生まれた道具たちは、使う人の身体や土地との関係の中で、新たな意味を得ていく。会場では、これらの道具と向き合いながら、あなた自身の“使い方” を想像してみてほしい。
本プロジェクトは、今後もさまざまなフィールドで展開していく。本作品の制作にあたり、多くの方々のご協力をいただきました。ここに深く感謝申し上げます。

LI MUYUN
2000年、中国・上海生まれ
東京藝術大学先端芸術表現科修士課程在籍
2018年7月に来日。2019年に東京藝術大学先端芸術表現科へ入学し、卒業後、同大学大学院美術研究科修士課程に在籍中。
時間芸術(タイムベースト・メディア)を基盤に、インスタレーション、映像、ステレオドラマ、パフォーマンスなど多様な形式を横断して制作を行う。制作の中心には「自由」と「愛」という根源があり、複合的な芸術実践を通じて、社会に潜む排他性を映し出しつつ、人間の存在と自由の形を問いかける。観る者とのあいだに対話や共鳴を生み出し、微かでも確かな変化を社会に育むことを目指している。
https://www.instagram.com/mira_culous0508/
無題 / 自在に近づけるための3000 回の祈り
2025 / 印鑑棚、印鑑、削り屑、障子紙、木
この作品は、使われなくなった印鑑棚との偶然の出会いから生まれた。そこには3000 枚の印鑑が収められていて、私は刻まれた名前を一つ一つ、《般若心経》を一遍唱えるあいだに、手作業で削り落としていった。
《般若心経》の核は、「すべてのものに実体はなく、形は移ろうものである」という思想で、見えるもの(色)と、それに貼りついた固定的な意味や名づけ(相)からの解放である。名もまた、「相」の一種だ。特に苗字は自ら選ぶことなく、私たちが生まれる前から制度や家系に与えられた枠組みである。印鑑棚に並ぶ無数の名前は、個人の存在に先立ち、「人とはこうあるべきだ」という社会的規範が用意されていることを可視化していた。
私が《般若心経》を唱えながら印鑑を削る行為は、私たち一人一人が「相」への執着を解き放てるようにと、祈りのようで、修行のような行為であった。削った後の印鑑の印影は、かつての名前の輪郭をほとんど失っていて、何もないようで、何にでもなり得ると、自由が宿る。
一人一人の人間が、ここで一面に広がる空の印影のように存在することができると、この作品を通して提示したい。すべての定義、たとえ自分自身が自分に与えた定義であっても、執着しなくても良いのだ。
ただ「在る」、それだけでもう充分かもしれない。
「私たち」は「私たち」である。それだけ良いと。
