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A-TOM ART AWARD 2024 審査員総評

株式会社アトムは、若手アーティストの育成を図るとともに、文化を通じた都市・地域活性を目指し、芸術を学ぶ全国の学生から作品を募集する「A-TOM ART AWARD 2024」を開催しています。2024年の受賞者および受賞者4名によるグループ展の情報は下記URLよりご覧ください。


A-TOM ART AWARD 2024 EXHIBITION
会期:12/1(日)~12/22(日)
時間:12:00~19:00
休廊:月曜日、12/20(金)
会場:コートヤードHIROO ガロウ(東京都港区西麻布4-21-2)
入場無料
参加作家:湯川爽海、武田椿、水野渚、宮森みどり
主催:株式会社アトム
協力:株式会社セイコーエプソン
https://a-tomartaward.jp/news/20241022259.html

■審査員総評


椿玲子(森美術館 キュレーター)
今年のテーマは「価値」。アートは、価値のあるもの、あるいは価値を生み出すものとして知られていますが、テーマとするにはかなり難しいお題でもあります。また、自分にとっての価値、社会にとっての価値、地球にとっての価値、は違うレベルのものであるようで、複雑に絡み合ってもいます。

今回の審査では、人間社会における価値形成について俯瞰的な視点から眺めているもの、人間の価値観を再検討するもの、あるいはそれらを転覆させるような視点を持つもの、などに注目しました。例えば、「公共性のあるものの方が私的なものの上位にある」という価値観が現代の社会では一般的ではありますが、まずは「私的なもの」が守られないといけないという価値観もあります。今回、一次審査を通過した10人を筆頭に、応募して下さった方々の多様な作品を通じて、私も価値について考えられる良い機会となりました。

不安定な情勢が続く現代においては、社会における価値も変化していくでしょうし、私たち個人の価値観も変化していくでしょう。しかし、自分にとっての価値観=自分の視点は、ますます重要になるでしょう。そうした意味で、今回の受賞者や応募者にとって、本アワードが、人生の中でそのような問いかけを行う意味のある機会となったことを願っています。


宮津大輔(アート・コレクター / 横浜美術大学 教授 / 森美術館 理事)
本年のテーマである「価値」と昨年のテーマであった「人間性を取り戻せ」は、一見相反しているようでありながら、我々が生きる”現在”を見つめ直す上で非常に似通った因子を包含している。
黒死病の如き新型コロナウィルスのパンデミックや、ロシアのウクライナに対する軍事侵攻、イスラエル・パレスチナ紛争といった”過去の亡霊”と思い込んでいた変事や惨劇が21世紀においてすら惹起する一方で、AIの加速度的な進化や化石燃料による気候変動は、「シンギュラリティ」や「人新世」といった人類喫緊の課題を浮き彫りにしている。

こうした時代背景の中で、今回の受賞者はもとより1次選考通過者の作品は、「二項対立」や「後期資本主義」あるいは「(狭義の)人間中心主義」といったグローバル・ノースにおける常識的な価値観からの脱却を示唆しているように思われた。

「絶対時間に対する疑義」「反同調圧力」「人間と機械の共存共栄」「脱一極集中」「取るに足らないもの/ことの重要性」「新たな家族像」などについて各自の視覚言語で織成された作品群は、美術が有する強い問題意識喚起力を再認識させるものであった。

若きアーティスト達の更なる活躍を、心より期待したい。
Photo:Tadayuki Minamoto


渡辺希利子(富山県美術館 学芸員)
若きデジタルネイティブ世代のアーティストがもつ、美意識と問題意識をどこまで把握できているか、自分が試されている審査でもありました。応募されたどの作家もその着眼点、発想力は新鮮。多様な意欲的な表現方法を用いて、テーマである「価値」を表現していたと思います。
マルセル・デュシャンへの直接的なオマージュ作品もありましたが、全体を通して、デュシャンがレディ・メイドで美術界にショックと分岐点を与えた歴史に思いを寄せながら審査しました。やはり、最新のAIやデジタル技術を用いた表現に疎い自分を強く感じ、同時に、自分が目にしている作品は、網膜的な戯れなのか、本当に血の通った作品なのか、鑑賞者の心に響くものなのか、という自問自答を繰り返しました。
結果、闇雲にテクニックに溺れることなく、自分でテーマを咀嚼し、作品へと昇華したもの。今日的な感覚と問題意識に加え、喜怒哀楽など人間的な部分がうかがえる作品に惹かれ、票を投じました。

アトムアートアワードに優秀な作品が集まり、ハイレベルな作品を目にする機会を得られましたことに感謝します。何より、作家活動をつづけていく方が一人でも多いことを期待します。


丹原健翔(作家 / キュレーター)
今回の展示では、いろんなメディウムでの応募があり、審査も様々な観点から考えさせられるものでした。結果も、その多様性を反映するように、いろんな形での作品が揃いました。近年のコンペの中でも、プレゼンに重きがおいてあるコンペは多くないなか、改めてこのアワードは、その作家の伸びしろだったり想いが重要なのだと思いました。それはやる気や努力みたいな感情論ではなく、コンセプトと作品というアウトプットの間でのズレみたいなものがより浮き彫りになるという意味です。
それに伴い、最終プレゼンの内容によって、作品が活きる場合と、作品の魅力を殺してしまう場合がありました。特に今年は新しい技術や社会課題をテーマにした作品も多かったですが、そういったものは広く多くの人にとって当事者性がある事象で、ゆえに自身がそのテーマと向き合う理由(=説得力)がないといけない、慎重な手つきが求められる気がします。それは高い専門性かもしれないし、自身の物語との相性かもしれないですが、そこに自身だからできる理由があることは、表現のアクセシビリティがどんどん上がりつつある今のテクノロジーの時代において、とても重要になります。
手つき自体はうまく、資料の作り込みもふくめ、とてもセンスのあるファイナリストが多かった印象です。そういった才能を使って、自身だから語れる物語を作品に昇華してくださることを、楽しみにしています。
Photo ©︎野本ビキトル(METACRAFT) 提供:e-vela.jp


伊東順二(美術評論家 / プロジェクトプランナー)
今年のAAAは例年よりなお一層表現メディアの多様化が顕著に見られた気がする。かつての絵画、彫刻、それに伴う油画、水彩、石彫、木彫などという種別が存在した時代がイリュージョンであったかのように思えてしまう。しかしデジタル草創期から熟成期に入った今の時代ではもともと個人の作業として完結していたアート制作ならではなのかもしれないが、ネットワーク型もしくはインタラクティブな完成状態にならざるをえない。一方デジタル作品制作の現場の増加に反比例するように脱デジタル、ハンドメイドな工程の精度追求志向がいままでにないほど加熱してきたというアート界の現状を反映した今回の審査だった。
しかし、異なる集合の共存は雑多な集合か、といえばそうではない。そこにはデジタル的、アナログ的創作の違いを超えた自己の創造に対する共通のスタンスが垣間見えるからである。何か、と問われればそれは創作プロセスに対する科学的分析への視点である。彼らは今や結果としての芸術作品を求めていない。作品という表象を結節点として捉え現実と非現実を結ぶ芸術という超常現象の解析を目指していると言ったらいいだろうか、20世紀までと全く異なる自己の存在意義にリーチしようとしているように見える。その点において、現代美術は制作姿勢においてアリストテレス的古代に回帰し、技術的に量子の世界の可視化にすら立ち入ろうとしていると言っても過言ではないだろう。もはや審査という形式をその行為の評価に当てはめるべきではないのかもしれない。そこに見えるのは行為者と評価者の合体と言う異なった地平の創造なのではないだろうか。
Photo ©︎Lorenzo Barassi x 伊ぃTOMO


青井茂(株式会社アトム 代表取締役社長)
今回「価値」をテーマに掲げさせていただきましたが、弊社は不動産売買・管理を中心に国内外でプロジェクトを実施しております。一般的に不動産業と言うと、表向きに追い求めているのは「経済合理性」「経済価値」だと思います。

私どもアトムは、アート・芸術こそが街の一丁目一番地に来るべき、経済活動に必要な要素だと考えています。アーティストとその作品たちと共にまちを作っていきたいと考えています。

今回の「価値」をテーマにしたコンペでは、多くの学生が多様な視点から「価値」という概念を表現し、それぞれが独自の解釈を作品に込めてくれました。応募された作品は、社会的、精神的、さらには文化的な価値まで、多岐にわたるテーマを扱っており、各作品から作者の深い洞察力と創造性が感じられました。

「価値」という抽象的かつ広義なテーマに対し、学生たちは自身の内面や社会の中での経験、未来への希望と課題を反映しながら作品を作り上げました。 物質的な価値を超えて、人間関係やアイデンティティ、持続可能な未来への価値を描いた作品が目立ち、私たちが普段見逃しがちな「価値」の多面性を改めて考えさせられるものでした。

最終的に受賞作品となったものは、私たちにとって「価値」というものがいかに多様で複雑なものであるかを、鮮やかに描き出したものばかりです。 今回のコンペを通じて、参加した全ての学生が未来に向けた新たな視点と表現力を示してくれたことに感謝し、今後の成長とさらなる創作活動に期待しています。

A-TOM ART AWARD 2024
https://a-tomartaward.jp/aaa2024/